丸山敏雄ウェブー倫理運動の創始者 その生涯と業績

倫理の道標

丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則

27. 心の底から聴く

耳は聞こえても、相手の心の声が全く聴こえない人がいる。

わだかまる自分の感情が第一で、他人の気持を理解できない。

話を聴く態度の中に、相手を裁く気持ちが隠れていないだろうか。

それでは、心は貝のように閉ざされてしまう。

ある人が、戦火のガソリンの炎で顔や手足に大やけどの傷を負って、昭和22年にマレーから復員してきた。そして、戦時下の様子、恐怖、痛みの具合などをつぶさに丸山敏雄に話した。すると、気持ちが楽になり、痛みまで和らいだという。
聴くということは相当に難しい。人の話をあくまで肯定的に聴くということが本当にできるだろうか。たいていは、「そんなことはあるまい」「それは大げさだ」「どうかな」といった気持ちが湧き起こってくる。次第にお互いの心がささくれ立ってくる。
「先生と親しくお話をしていていつも感じましたことは、先生は一つの不思議な力を持っておいでだということです。それは、人の素直さを、そのまますっと引き出してくださる・・・・・・とでも申すのでしょうか、先生の前に出ると、不思議に、何もかもぶちまけてお話ししたくなってしまうのです。いつもにこにこしながら、それでいて、どんなにつまらないことでも、真剣に聴いてくださるあの熱心さには、本当に頭が下がりました。この先生なら、どんなことでも打ちあけて、聴いていただける、そう思ってからの私の生活に、どれほどの安心と喜びと、力強さがみなぎったことでしょう」

敏雄から学んだ多くの人たちが「慈父に接するようだった」と語る。誰に対しても心からの思いやりを傾けた。どんな些細な話でも敏雄は真剣に聴いた。嘘も誠と思うほど全幅ぜんぷくの信頼をおいたその聴き方に、人びとは魅せられた。

大津実践部設立式典での講演

大津実践部設立式典にて。聴衆の顔が一斉に敏雄に向けられている

権利や意見の主張には熱心だが、自分の見方に偏りはないかと反省する人は少ない。今日ほど、自分の意見ばかり述べて、人の言うことを聴かない時代はない。
「他人の言うことを吸いとるようによく聴くことが、自分を捨てることになる」
敏雄はそうも言った。自分を捨てた時、人との間に和が生まれる。
自分の言うことを聴いてもらいたいと思えば、まず他人の言うことを聴く。自分を立てる生活を捨てて、相手の言うことに耳を傾ける。
私たちは、急ぎの用件を抱えている時や疲れ切っている時もある。そんな時でも、ニコニコして相手の言うことを聴けるようになれたら、世の中がどんなに和やかになることか。
セミナーの講義中、敏雄は、「講義ノートをとる必要はありません。私の話は、黙って聴いておれば良いのです。心から耳をすませて聴いていると、必要な時に、はっきり思い出すものです」と、率直に述べている。
嫌がらないで、心の底から聴く。耳で聞くというより、心で聴く。これが、本当に聴くということなのである。喜んで、そのままに聴く。先入観を捨てて、白紙の気持ちで聴く。また、家庭や職場の中心者の指示も進んで「ハイ」と受け入れる。
聴くことは、お互いを理解し合い、楽しく暮らすための秘訣である。